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第四章 ホノファーナの相棒を見つけようと、ドラゴン保護団体の団員たちは手分けして街を回ることにした。 ロキエはまずホノファーナが泊まっているという都市の中央にある高級ホテルに向かった。 ディオのことも心配だったのでついでにそっちも見つけようと思い、真っ先に出向いた。 まさかそんな立派な所に泊まっているとは思わなかったのでかなり驚いたが、言われてみれば高貴な顔立ちをしているような気もする。 王侯貴族が利用する所で、多少気後れしながら門をくぐる。 警備が厳しいので予約が無いと入ることもできない筈で、人の良さそうなドアマンに声をかける。 ホノファーナの知り合いだと名乗り、連れが来なかったか訊いてみるが、客の情報は教えられないと言われた。 昨日の夜不審な少年が入ってきてから、警戒を厳重にするように言われたばかりだという。 「ディオか…」 「ん?」 「いや、何でもない。悪かったな、仕事の邪魔をして」 「こっちこそ役に立てなくてすまんな」 すまなそうな苦笑をつくるのに首を振って見せ、その場を後にした。 彼も仕事だから仕方がない。 もともと期待はしていなかったが、やはりこっちから情報を得ることはできなかった。 諦めてホテルの周辺を回る。 まだディオが本部に戻っていなかったから、未だにこの辺りで寝ているのかもしれない。 もしそうなら起こして団体本部に向かわせようと思ったのだが、見る限りではいないようだった。 なるべく捜索隊の人数を増やしたかったので、ニータだけを残してきたのだが、それが少し心配だ。 ニータはホノファーナの暴れぶりを見ていない。 しかも気の強い少女で、ワルネミュンデが好きだ。 急いでいたのでろくな説明もせずに出てきてしまったので、変なことを口走ってホノファーナを怒らせたりしなければいいが…。 手足を縛ったとはいえ、ホノファーナは魔術を使えるし、あの怪力には無駄かもしれない。 不安になって溜め息をつく。 せめてディオくらいは塔にいてもらうべきだろう。 きょろきょろ探すが、その姿はこの辺りには無い様だった。 やはりいくらなんでもこの時間まで寝ていることはないらしい。 他を当たろうと思いながら歩いていると、前から見知った顔が近付いてきた。 大きな荷物を抱えていて、向こうもロキエに気付いたようだった。 ワルネミュンデ関連の人間だと思うと自然と顔が歪む。 そのイヤそうな顔を見て、ツルアは口元を笑ませてロキエの前で足を止めた。 「何サボってるの、ロキエ。見回りの時間でしょ」 「ワルネミュンデのせいで大変なことになってるんだ」 「ふーん。また、ワールだけが悪いことになってるの?」 呆れたように肩を竦める。 一つのことが原因で最悪の事態にはなり得ないというのがツルアの持論だ。 「まあ、今回はアイツよりホノファーナの方に問題があるんだがな」 「…――ホノファーナ?あのカワイイ女の子?」 「…カワイイ?あの化け物のどこが…」 「化け物って…」 眉をしかめながらも苦笑する。 年下のくせに、困った弟を見守るような目をするので、ロキエはツルアが苦手だし、早くディオを探したい。 方向転換して再び歩き出そうとするとツルアが後に着いてくる。 「あ、そういえば…」 並んで歩きながら、ふと思い出したようにツルアが口を開く。 「さっきディオに会ったわ」 「いつどこで?」 「私が見たのは街の外れで、お昼過ぎ…」 思い出して軽く笑う。 「額に『バカ』って書いてあったけど」 ホノファーナがそう言っていたのを思い出し眉をしかめてから、ツルアを横目で睨む。 「……ちゃんと教えてやっただろうな」 「知ってるみたいだったわよ。一人じゃなかったし。カワイイ男の子を連れてたわ」 「誰だ?」 「知らないコ。金髪で……そういえばワールの連れてた――ホノファーナ?彼女に少し似てたかも」 「え――…」 何気なくきいたつもりだったが、これは大収穫かもしれない。 詳しい話を聞き出すと、それは確かにホノファーナの相棒のようだった。 ぼんやりと目を開き、いつもと違う辺りの様子を窺う。 粗末な部屋が目に入り、ガラスの入っていない窓から乾いた風が流れてくる。 窓の脇に杖が見え、古びたベッドの上で、ホノファーナは記憶を探った。 こんな所で眠りに就いた覚えはない。 身を起こそうとして、後ろ手に手を縛られていることに気付く。 足首も縛られているらしい。 動けないようにされているのだと悟り、深く溜息を吐いて目を瞑る。 ワルネミュンデにしてやられたことを思い出し、自嘲気味な笑みが洩れた。 信用ならない男の前で油断をしてしまった。 魔術を防がれて動揺していたとはいえ、とんだ失態だ。 その上拉致されているのだから笑ってしまう。 ワルネミュンデの余裕げな緑の瞳を思いだし、奥歯をかみ締めた。 絶対に報復してやるという思いが、腹の底で煮えたぎる一方、自分の情けない格好に少々呆れた。 杖がないと魔術が使えないわけではないので、口の中で呪文を呟き、手首を縛っている縄を軽く切る。 よっぽど遠くに持っていかれたならともかく、同じ室内にあれば十分だ。 自由になった手をコキコキと運動させてから、足首の縄も解く。 ベッドを降りて窓の外を眺めると、眼下に森が広がって見え、予想通り、ここはドラゴン保護団体の塔だと分かった。 思ったより長く意識を失っていたようで、太陽は既に大きく傾き、そろそろ沈む準備を始めていた。 そして、階段を上って近づいてくる気配がし、注意を向けるとカチャリと部屋の扉が開き、見たことのない少女が驚いた顔でホノファーナを見つめた。 肩の上で切った黒髪がバサバサにはねている、吊り目で短気そうな少女だった。 「…縛ってあるから動けないって、ロキエが……」 「何を根拠にロキエの言葉を信じたのかしら」 クスリと笑うと少女はあからさまにイヤな顔をした。 馬鹿にされて、一気にホノファーナのことが嫌いになったらしい。 「あんた、ホノファーナって言うんでしょ。なんで縛られてたのよ」 「あまり信用されてないのかしら、あなた。説明もしてもらえないなんて」 「みんな忙しいからそんな暇なんてなかっただけよ。別にロキエから聞かなくたってあんたに訊けば済むことなんだから、つべこべ言ってないで教えればいいでしょ」 「教えてどうなるっていうものでもないし、私に何の得もないんだから、教える必要を感じないわ。それより、ワルネミュンデがどこにいるのか教えなさい」 「…ワールに何の用?」 警戒するような瞳をつくったのに、嘲るような笑みを向ける。 「あなたも、ワルネミュンデの恋人の一人なのかしら」 「あんたに関係ないでしょ」 「その通りね。ワルネミュンデとあなたの関係なんて知りたくもないけど、ワルネミュンデの居所は知りたいわ」 「知ってどうするの?ワールはあなたみたいな女、好みじゃないわよ」 「あらそう」 牽制するような目つきをされ、うんざりして肩を落とす。 男のことしか頭にないようなバカ女と長く話し込んでいるつもりはない。 ニータを虚栄心だけの中身の無い小娘と勝手に決め込んで、ホノファーナは蔑んだ瞳を作った。 「私の方はワルネミュンデをえらく気に入ってるの。張り倒して殴り付けてやりたいくらい」 ニコリと微笑んで見せると、ニータはムッとして眉をしかめた。 「ワールに相手にされないからって恨みを暴力で晴らすの?それってサイテーね」 「そういう低次元な勘繰りはやめてもらいたいわ。私はあなたと言い争っているほど暇でもないしワルネミュンデに好意を持っているわけでもないの。とにかく叩きのめしてやりたいだけなんだから、おとなしく居場所を教えなさい」 「サイテー。逆恨みも程々にしたら?ワールを悪者にして自分の魅力の無さを棚に上げるなんて、同じ女として恥ずかしいわ。相手にされないのはワールのせいじゃなくて、あなたが悪いのよ」 どこまでも勘違いし続けるニータに腹が立ってくる。 勘違いしたいなら勝手にしていればいいが、それでホノファーナの行動を妨げているのはいい加減にして欲しい。 「自分がそうだからって私まで同じ立場に堕とさないでもらいたいわ。私はワルネミュンデみたいな最悪な人間に興味はないし、相手にしてもらいたいなんて卑屈な考え方も嫌いだから、あなたともこれ以上話していたくないの。この場を去ってあげるからワルネミュンデがどこにいるのか言いなさい」 ホノファーナに思い切り冷笑され、ニータは憤慨して顔を赤くした。 「あんた、ちょっと失礼じゃない?」 「特にそうは思わないわ。あなたのレベルに合わせて分かりやすく、納得しやすいように私の気持ちを伝えただけよ」 「納得できるわけないじゃない!」 「してもらわなきゃ困るの。嘘偽りない真実の気持ちを述べたんだから、言い直せと言われても心は変えられないでしょ。そう思ったんだから仕方ない。感情は自然に沸いてくるものでしょ。意志で変えられるものじゃないわ」 「あんたなんて大っ嫌い!」 意外な言葉に驚いてしまう。 まさかそんなくだらない台詞を聞かされるとは思っていなかった。 思わず笑ってしまう。 「それって、自分のことを好きだという人に言えば効果があるかもしれないけど、悪いけど、私もあなたにはあまり好意を持てないと思うわ、この先も。あなた、ちゃんと頭で考えて口を動かしてる?それとも、私があなたに好意を抱いているとでも思ったのかしら。だとしたら相当おめでたいわね」 「…なんてイヤな女なの」 「そう思わせようとしてたんだから、私の思い通りにあなたの感情を動かせたってコトね。嫌がらせは成功で、その確認までさせてくれて感謝するわ」 「――――…」 ニータは何か言おうと口を開いたが、そのまま黙り込んで憎らしげにホノファーナを睨む。 軽く黙らせてしまったことが少しつまらなかったが、とっととワルネミュンデを捕まえて張り倒した方がすっきりするに決まっている。 「ワルネミュンデはどこ?」 簡単に口を割るとも思えなかったが、とりあえず訊いてみる。 思った通りニータはふて腐れたように黙り込んでいたが、案外あっさり口を開いた。 「…知らないわよ」 「どうして?何も言わずに出ていったの?行き先くらい訊いておきなさいよ」 呆れた顔をするホノファーナに、むっつりとした顔を向ける。 「会ってないもん。ロキエたちが帰ってきた中にいなかったから、別行動なんでしょ、たぶん」 「そんなわけないわ」 ホノファーナはワルネミュンデに気絶させられたのだ。 その張本人がホノファーナを放っておいて、どこで何をしているというのだろう。 どういうつもりであんな行動を取ったのかいまいち分からない。 神龍にあれ以上攻撃させないためというのは分かるが、それならホノファーナを見張っていてもいい筈だ。 それがいないとなると、他にすることがあるか、ホノファーナの報復に恐れをなして逃げたか。 「だってそうなんだもん。ロキエたちは戻ってきてあんたを5階まで運んで縛ってから、私に見張ってるように言って、すぐにみんなで出ていったわ。ワールについては何も言ってないし…」 「ロキエたちは慌ただしく出ていったのね?」 「そうよ。誰かを見つけないといけないとか言って…」 それを聞き、ホノファーナはロキエたちはワルネミュンデを探しに行ったのだろうと考えた。 とにかくすべての原因を作ったワルネミュンデに責任を取らせようというのは、ロキエの考えそうなことだと思った。 それなら、ここで待っていれば誰かがワルネミュンデを捜してここへ連れてくるだろう。 ホノファーナの手間が省ける。 再びベッドに腰を下ろし、ニータに笑みを向ける。 「捕虜に食事は出ないのかしら」 「………パンとハムならあるけど」 「それでいいわ」 イヤそうにしながらも、ニータはしぶしぶ部屋を出ていった。 そして、ホノファーナは溜息を吐き、窓の外を眺めた。 ワルネミュンデは許せない。 ホノファーナの魔術を破っただけでも屈辱なのに、みっともない姿を多くの人に晒させて。 嘘臭い笑みを思い浮かべると同時に『罪滅ぼし』という単語も頭に上ってきた。 アレは一体何だったのだろう。 単にホノファーナの気を引くための言葉だったのか、何か意味のあるものなのか。 誰に対してどんな罪を犯したのか、少し気になった。 小さな罪なら気にも留めないであろうワルネミュンデが、償っている何かがあるのだろうか。 あり得ないと思いつつも気になる。 あるとしたら、神龍に、だろうか。 神龍を護っていたし、アリスト族の竜爪を扱えるのも、その辺りに何かあるような気がする。 個人的な『罪滅ぼし』にホノファーナも組み込まれたのだとしたら、何の罪もないホノファーナにとっては迷惑な話だ。 目的の邪魔をされ、その上色々屈辱を味合わされ、そっちの方の『罪滅ぼし』は何をしてくれるというのだろう。 どんな理由を提示されても、どんな償いをされたとしても許す気はない。 ただで済むと思っているなら、ワルネミュンデは相当な愚か者だ。 人をコケにするとどういう目に合うのか身をもって分からせてやらなければ気が済まない。 ベッドの上で思いを巡らせていたが、ふと扉の向こうに人の気配がして顔を上げた。 それがいかにも殺気立っていて、ニータが食事を運んできたとは思えなかった。 音を立てないように注意して立ち上がり窓の側に置いてあった杖をそっと手に持つ。 塔の中は相変わらず静かだったが、その静寂に妙な違和感を覚える。 異質なものを感じ、身構えた。 静けさが扉の開いた大きな音に破られ、狭い室内に幾人もの人影が押し寄せた。 構えていたホノファーナに少しも怯む様子を見せず、リドラエルは真っ正面から対峙して、おもむろに口を開いた。 「ホノファーナ=シ=チ=レーン=レジア。貴様を亡き者にする――…!」 その物騒な台詞に内心で驚きつつも、ホノファーナはリドラエルを睨み付けた。 リドラエルの太刀筋は、ワルネミュンデに比べると数段読みやすいような気がした。 ワルネミュンデと遣り合ってはいないが、リドラエルが劣っていることは一目瞭然だ。 「なぜ私が亡き者にされなくちゃいけないのかしら」 軽く竜爪を弾きながら訊ねると、リドラエルはフンと鼻を鳴らした。 「私がワルネミュンデを貰う。貴様は邪魔だ」 「……―――はぁ?」 ワケが分からず首を傾げる。 「何言ってるの、あなた。ドラゴンと戯れすぎてとうとう気が触れたのかしら」 「無礼者…!」 強烈な一撃を杖で受ける。 かなり真剣で、ホノファーナでなかったら杖を取り落としていたかもしれない。 どうやら本気でホノファーナを亡き者にしたいらしいが、その理由がよく分からない。 言われた言葉を理解しようとすれば、それはリドラエルがワルネミュンデを欲しがっているということになるが、それにどうホノファーナが関わってくるのかが謎だ。 ギリギリと、竜爪と杖を押し合う。 力で負けるわけがない。 ホノファーナは楽々それを押し返す。 リドラエルは大袈裟に後ろに転倒しそうになって、仲間がそれを支える。 足元がかなりふらついている。 昨日から一睡もしていないとはいえ、体力もなさそうだった。 「眠いんだったら森に帰ったらどうかしら」 「侮るな、愚か者」 「愚かって…どっちがそうだかちょっとは少ない脳ミソで考えてみなさいよ」 「貴様……!」 思い切り睨み付けてくるリドラエルを冷たく見下ろす。 「何でもいいけど、ワルネミュンデが欲しいなら勝手に貰えばいいでしょ。なんで私を亡き者にしなくちゃいけないのかしら。それがワルネミュンデと交わした条件?…―――だったら張り倒すだけじゃ済まないわよ、ワルネミュンデ」 そう言って、ホノファーナは窓に手をかける。 ふらふらになりながらも再度挑んでこようとしているリドラエルに冷笑を送り、そのまま飛び出した。 「…バカな!」 慌ててかけ寄ってきたが、その時既にホノファーナは身を踊り出している。 下を見るとホノファーナの体が見る間に小さくなっていった。 5階の窓からそのまま、塔と平行に落下してゆく。 唖然とした空気が室内を満たした。 着地の直前、リドラエルは思わず目を背ける。 そして慌てて目を戻すが、そこには何の痕跡もなかった。 目を細めてみても、ホノファーナの遺体も血の跡も何もない。 確かに落ちていった筈だが、どこに消えたのだろうと思った時、後ろの一人が声を上げて街の方を指差した。 塔と街をつなぐ道は何本かあり、その抜け道の一本にホノファーナの何の怪我もない姿が見えた。 木々の間を抜ける際、チラリとリドラエルに目を向ける。 挑戦された気がして、リドラエルは唇をかむ。 「追うぞ!」 いくらなんでも魔術師でないものがこの高さから飛び降りれる筈がなく、急いで階段を降りる。 3階にいたニータは押しかけてきた大勢のアリスト族に恐れ入って床にへたり込んでいる。 それを無視して駆け下りると、塔の前で何人かの組を作り、手分けして街に入ることを指示する。 普段は街に入るのを拒んでいるアリスト族だが、今回は緊急事態だ。 ホノファーナを見つけ次第、抹殺するように言った。 ロキエは再び森に向かっていた。 ツルアは、ディエがホノファーナの相棒らしき人物を連れて森に向かっていたと言っていた。 レカオーという名の少年で、年は13歳くらいらしい。 相棒にしては少し頼りなげな気もしたが、ホノファーナが異常に頼り甲斐がありそうなのでちょうど良いのかもしれない。 金髪で鳶色の目をした丸顔のカワイイ子だったという。 ロキエとしては男にカワイイというのは失礼だと思っているが、ツルアはそう言うのでツルアの目から見てカワイイだろう少年を捜すことにした。 さっきホノファーナを担いで降りたばかりの道をたどるその途中、少しホノファーナの様子を見て行こうと思い立った。 ニータにそれなりの説明をしておかないと余計にホノファーナを怒らせかねない。 機嫌をとって気を鎮めておいてもらいたいが、気の強いニータにそれができるかは疑問だ。 不安を抱えながら、塔に向かう。 遠くから見る塔はいつも通りに静かで、まだホノファーナが目覚めていないことを祈った。 早くレカオーを見つけてホノファーナを故郷に連れかえってもらいたい。 ドラゴンに攻撃するという無謀なことを止めるのはもうこりごりで、いくら遮ってくれたとはいえ、あの炎をあんなに間近で見るのは一生に一回で十分すぎるくらいだ。 思い出しただけで身が竦む思いがした。 「ロキエ!」 名前を呼ばれ振り向くと、ディオがすまなそうな顔で駆け寄ってきた。 「…―――ゴメン、オレ、見張ってろって言われたのに寝てて…」 「それはいいから、お前、一人か?」 額が見えないように頭に布を捲いているディオは、訊かれて不思議そうに首を傾げた。 「レカオーは?」 「え?…アイツのこと、知ってんの?」 「いや、直接は。ホノファーナの相棒なんだろ?」 「っていうか、お目付け役だって言ってた。ホノファーナの行動を見張ってて、行き過ぎた行動は制限する筈だったけど、隣の街で見失ったんだって」 「それなら、尚都合がいい。ちゃんとホノファーナを止めてもらわないと。…――で、どこに行ったんだ?」 「森の入り口。ホノファーナが出てくるのを待つって言って、おとなしくしてる」 それを聞いてホッと胸を撫で下ろす。 どうやらホノファーナが暴れ出す前に捕まえれそうだ。 「一応報告した方がいいかと思って、ロキエを探しに来たんだけど…」 「ご苦労サン。塔で待ってるからレカオーを呼んできてくれるか?」 「分かった。ホノファーナは塔にいるんだろ?」 ロキエが頷くと、ディオは森へ駆け出していった。 そして、ロキエは何とかなりそうだと安堵して、塔へ向かって歩きだした。 傾いている太陽を眺め、今日は大変な一日だったと自然と溜息が洩れた。 朝早くから森を駆け回ったり、アリスト族と乱闘したり、ホノファーナに殴り倒されたり、ドラゴンの炎に焼かれたり、色々なことがあった。 それも、もう終わろうとしていると思うとホッとする。 リドラエルたちの行動を知らないロキエは、清々しい気分で歩いていた。 そして、だんだんと塔に近付いて、入り口が目に入ってくると、そこでニータが右往左往しているのが分かった。 不思議な気分でそれを見やり、すぐに悪い予感に襲われて眉をしかめる。 何かがあったのだと漠然と感じた。 「ニータ!」 駆け寄るとニータは泣き顔でロキエの腕にすがってきた。 「アリスト族が―――…」 ホノファーナが暴れ出したのだろうかと思っていただけに、その言葉は意外だった。 「アリスト族?」 「団体で押しかけて…、ホノファーナを連れていってたの……」 「ホノファーナを?」 驚いて目を見開く。 実際は逃げていったホノファーナを追ってアリスト族も出ていっただけなのだが、現場を見ていないニータにはそう見えた。 アリスト族がいなくなった後の5階の部屋にホノファーナもいなくて、階段は一つしかないとなると、そう判断してもおかしくはなかった。 ロキエはロキエで、ホノファーナを縛ったまま置いていったという認識があり、そのために抵抗できなくてあっさり連れて行かれたと思い込んだ。 そして、アリスト族の許に置いてきたワルネミュンデのことも気になった。 あの人数に一人で立ち向かわせたのはやはり無謀だった。 今更になって不安になり、アリスト族がいるだろう森を睨む。 その時、森の方からレカオーを連れに戻った筈のディオが一人で走ってきた。 「ロキエ…!レカオーがいないっ」 言葉を失ってディオを見やる。 「一人で森の中に入っていったのかもしれない!」 愕然とした思いで目を瞠る。 一気に事態が悪化した。 神龍を起こしてから、ワルネミュンデが消え、ホノファーナが消え、レカオーが消えた。 静かに眠りに就いていた神龍を目覚めさせたことが原因だろうか。 あの威厳ある巨大ドラゴンを怒らせてしまったのかもしれない。 嫌な気分が胸にわだかまっている。 「どうしよう、ロキエ」 「…探しに行くぞ。…――ニータは誰か戻ってきたら事の次第を伝えて、ここに集合するように伝えてくれ」 ニータが頷くのを見てから立ち上がる。 「勝手な行動に出るなよ」 言い残すと、ニータは何度も深く頷いた。 それを確認して、ディオと共に走り出す。 アリスト族に捕らわれた3人を救わなければと焦っていた。 街に入ったのは失敗だったかもしれないと、ホノファーナは少し後悔していた。 人が多くて走りにくく、魔術を使ってもそこにいる人すべてを巻き込んでしまうから困る。 振り返るたび背後にリドラエルが見え、前にも注意を払っていないといつどこから攻撃の手が伸びてくるか分からない。 人に紛れて逃げられるというのだけが利点だが、ジャラジャラと宝石類が音を立てる上、ホノファーナの長い金髪は目印にはもってこいだ。 それでも、さすがに剣を振り回すわけにもいかず短刀での攻撃が精一杯らしい。 人の中からの不意打ちのような攻撃は、あらかじめアリスト族だと予測をつけておかなければどうにもかわせないが、一般の人間とアリスト族を見分けるのはその身のこなしを見ればすぐに分かる。 素早く、身軽そうだと思えば大概はアリスト族だった。 そしてまた、前からそれらしき人物が近付いてきた。 ホノファーナと目を合わせないようにしながらも、チラチラとこちらを窺っているのが分かる。 密かに杖を握り直す。 人を縫って小走りに駆け、すれ違おうとしたその時、ホノファーナの腹めがけて短刀が伸びてきた。 「覚悟……!」 カツンと固い音がして、直前で杖に阻まれる。 舌打ちして過ぎ去ろうとした男の首筋に、ホノファーナが素早く肘鉄を食らわせる。 男の身体はぐらりと傾き、その場に倒れると側にいた女が悲鳴を上げた。 旅行者の多くは、旅先で余計な事件に巻き込まれたくないと思っているらしく、その場をざっと離れる。 人の円の中に倒れた男が取り残され、慌てた人が声をかけるのを背後に聞きながら、その間に、ホノファーナは近場に見えたレストランに入り込んだ。 人の注目は倒れた男に集まっていて、ホノファーナを姿を見たものは少なかった。 店内は外の騒ぎに気を取られていて、入ってきた客を誰も気に留めない。 ホノファーナはそのすきに店内を眺め回した。 奥の方に白い扉を見つけ、素早く駆け込むと、すかさず戸を閉めた。 そこは従業員控え室になっていて、中にいた女が驚いてホノファーナを見た。 その視線を受けながらも、誰も追ってきていないことを祈り、しばらく外の音を探っていたが、中に入ってくる者はいないようだった。 「あの…お客様?」 「…ネービュを呼びなさい」 「は…?」 「急いでるの」 鋭く睨むと、店員は怪訝な顔をしながらも店の方へ向かった。 そして間もなくネービュがおずおずと顔を出した。 ホノファーナの顔を見て不安そうな顔をしたが、呼びに行った店員を追い出して二人きりにさせてもらった。 ちゃちな机の前に置いてある木の椅子に腰を降ろしながらネービュに目を向け、向かいに座るように促すとビクビクしながらもおとなしく従った。 「ネービュ」 「…は、はい……?」 「自警団を呼びなさい」 「ハイ…?」 「いるでしょ、この街にも」 「…何か事件があったんですか……?」 ネービュは困惑げで、何か理由が要るのだと、ホノファーナも納得する。 「アリスト族が徘徊してるって密告しなさい」 「…密告ですか?」 「集団でスリを働いてるとか…。何でもいいわ。とにかく街からアリスト族を追い出すの」 「……でも…」 渋るネービュに少し腹が立ってきた。 アリスト族を何とかしないとワルネミュンデを探すこともできない。 事情を聞けないままリドラエルに抹殺されるのはゴメンだ。 「あのね、あなたワルネミュンデの恋人でしょ?」 そう問いかけると、ネービュは赤い顔をして俯く。 「だったらワルネミュンデのせいで迷惑を被ってる私の頼みを聞くくらいなんでもないことでしょ?というよりそうする義務があるわ」 「…ワールのせいで…?」 「そうよ。諸悪の根元はあなたの恋人なの。別にあなたにアリスト族を追い出せって言ってるワケじゃないんだから、自警団を呼ぶくらいのことをしてもいいんじゃないかしら」 「あの…、アリスト族に追われてるんですか?」 訪ねてくるのをじろりと睨む。 「別に私の事情なんてどうでもいいのよ。あなたは自警団を呼んで、ついでにワルネミュンデがきたら私に教えなさい」 昨日エリザという少女と会う約束をしていたのを覚えている。 だからワルネミュンデは必ず来るはずだ。 怪訝な顔をするネービュを追い出し、ホノファーナはその部屋を陣取った。 すべての原因を作ったワルネミュンデは、神龍の前でアリスト族を見送ってからゆっくりと森を歩いていた。 ホノファーナとロキエという並外れた体力の持ち主について走り回った挙げ句、短気で強引なアリスト族と乱闘したのだから、疲労は相当たまっている。 しかも、昨夜はあまり寝ていない。 塔の仮眠室に向かおうと思ったが、そこにホノファーナがいるかもしれないことを思い出して予定を変更する。 たぶん、ホノファーナはワルネミュンデを探す筈で、ロキエたちにそれを止められるとは思えない。 見つかったら報復が待っているだろうが、いくら自分に原因があっても、それを素直に受けようとは思わない。 どこか違った場所で一眠りしようと思ってあくびをしながら森の出口にさしかかると、そこに見たこともない少年がちょこんと座っていた。 金髪のカワイイ顔をした少年で、右腕に不思議な模様が刻まれている。 その少年はレカオーと名乗り、ホノファーナを探しているのだと言った。 それを聞いてピンと来た。 この少年こそ、ホノファーナを追ってきた相棒だ。 ワルネミュンデの予想とはまったく違った感じの人物で少し拍子抜けするが、なかなかかわいげのありそうな少年だった。 ホノファーナにとってこの少年がどれほどの存在なのかは知らないが、味方につければ報復は免れることができるかもしれない。 打算が働き、レカオーを誘って街に降りた。 仲良くしておいて損はない。 街をフラフラしながら手懐けてしまおうと考えていた。 人込みに入ると、相変わらずワルネミュンデの美貌は人の注目を集めてしまう。 レカオーはホノファーナと一緒に旅をしてきただけにそういう雰囲気には慣れているらしいが、いつもと違う視線が多くて少し戸惑っていた。 「なんかすごく見られてるよ、ワール」 「好意的な目だよ」 「ふーん。人気あるんだ、ワール」 屈託なくそう言われて、ワルネミュンデは思わず苦笑する。 それきり気にならなくなったのか、レカオーは物珍しそうに市内観光をしていた。 そして、歩きながらレカオーは、ホノファーナの行き過ぎた行動を止めるために付き添っているのだと聞かせてくれた。 「行き過ぎって…」 「そのまんまの意味。アイツやることがいちいち派手だし、度を越してるんだ、昔から。祭りの時なんかもちょっと火をつければいいだけなのに祭儀台ごと吹っ飛ばしたり」 「分かるよ、なんとなく」 「根がひねくれてる上にみんなに甘やかされてるからあんな風になるんだよ。アイツが何したって誰も文句言わないし、遠巻きに見てるだけなんだ、いつも」 甘やかされているというより、畏れられているのだろうと微苦笑する。 「逆らえないんだな、たぶん」 「だからって放って置いていいってもんじゃない。ヤツが旅に出るって言い出した時、みんなホッとした顔したんだぜ?村から嵐がいなくなるとかって。嵐が消えたわけじゃなくて目の前から見えなくなるってだけなのにさ」 「それでキミが見張り役をかってでたわけか」 憤慨するのにワルネミュンデがそう言うと、レカオーは思いきりイヤそうに眉をしかめた。 「違うよ。長老に押し付けられたんだ。オレが、誰か止めろって言ったらお前が行けって…」 失言だったと言って肩を落とす。 「もともとホノファーナ付きの杖師だったとはいえ…」 「ツエシ?」 「杖を作ったり直したりする人のこと。まあ、他にも雑用とかさせられるから、召し使いみたいなモン。レジア一族の魔術師と杖師は神と巫女みたいな関係なんだってさ」 「男でも巫女?」 「みたいなもん」 素っ気無く言われる。 なんとなくホノファーナの態度のでかさの理由が分かったような気がする。 身分制度のしっかりした民族で、神のように崇められ、みんなに畏怖されていた姿が目に浮かぶ。 「まったく村でおとなしくしてればいいのにさ、ドラゴンに会いに行くとか言って突然出て行くんだもん。人迷惑な話」 「そのせいでオレも巻き込まれて大変な目に合ってるわけか。ホントにホノファーナって自分勝手だな」 意見を合わせて溜息を付くと、レカオーは嬉しそうにワルネミュンデの背中を叩いた。 「ワール、オレと気が合う」 「そう?誰でもホノファーナに持つ感想はそんなもんだと思うけど」 「思っても口にしないヤツばっかり。飽き飽きしてたんだよ、そんなの」 その言い分も分かる気はするが、レカオーがワルネミュンデを気に入ってくれたのならそれでいい。 人懐こい笑顔を浮かべて見上げてくるのに微笑み返す。 そして、大通りを歩いて公園に差し掛かった時、名前を呼ばれた。 一瞬ホノファーナだろうかと警戒したが、振り返るとツルアが店の中から手を振っていた。 そういえばここがツルアの働いている土産物屋だったと気付く。 「あら?レカオーだったわよね?」 店に入ると、ツルアはレカオーを見て首を傾げた。 何人か土産物を選んでいた客がワルネミュンデの完璧な美貌を見て少し怯んだようにしたが、あからさまに関心を示してきたりはしなかった。 「ディオと森に行くって言ってなかったかしら?」 「一応行ったけど無駄だった」 「で、オレが暇そうにしてたのを発見して一緒に遊んでたんだよ、今」 「ふーん。ホント、ワールって誰にでも声かけるのね」 老若男女問わず、気になればすぐに話しかける。 お節介というより寂しがりやだと、ツルアは勝手に思っている。 「でも、やっぱりレカオーってホノファーナの知り合いだったの?ロキエにホノファーナに似たコとディオが歩いてたって言ったら慌てて走っていったんだけど」 「ロキエが?」 たぶん自分と同じようなことを考えているのだと思いつく。 それなら、レカオーはワルネミュンデの側に置いておくのがいいだろう。 何しろホノファーナはワルネミュンデに対して怒っている。 神龍を倒す邪魔をして、意識を失わせたのだから、あの気性からいって相当な報復があるだろう。 宣言されたわけだし、自由になったら必ずワルネミュンデを探しに来るという確信がある。 「何だか慌ててたし…。ホノファーナとワールが何かしでかした、みたいなことを言ってたけど、今回は何をしたワケ?」 ツルアは悪戯っぽい目を笑ませた。 「ちょっとね。仕事の邪魔をしたかもしれないだけ。…――それよりなんか食べにいかないか?」 「賛成!オレお腹空いた」 「じゃ、決定。ツルアは店番だろ?」 「そうよ。他の女のコに奢ってもらってね、今日は」 「アテは確保してあるから。じゃ、またな。愛してるよ、ツルア」 そう言って恋人の一人と別れ、ワルネミュンデはレカオーを連れて昨日エリザと約束したレストランへ向かった。 今日神龍に会った者の中で、ワルネミュンデだけは日常に戻りかけていたが、それももう終わろうとしている。 今ワルネミュンデの向かっている店には、ホノファーナが待ち構えている。 知らず知らず、ワルネミュンデはホノファーナに引き寄せられているのだった。 アリスト族も、保護団体も、ホノファーナも、ワルネミュンデを中心にした嵐に巻きこまれているだけだった。 まだ何も片付いてはいない――――……。 森の入り口にさしかかり、ロキエは中に急ごうとしたディオを手で制する。 陽は落ち始め、既に森の中は暗くなっていた。 それを注意されるのかと思ったが、ロキエは辺りを窺うように黙り込み、耳をそばだてて音を探り始めた。 早くレカオーを見つけたいディオは、ロキエのその呑気に見える行動に焦りを感じた。 「ロキエ、どうしたんだよ」 苛つきながら訊ねると、静かにするように言われてディオが口を閉じると、ロキエは無言で眉をしかめていた。 しばらくしそうしていたと思うと、ふと顔を上げて街の方を見やった。 「……―――街の方で何かある…」 厳しい顔で呟くと、森にチラリと目を向ける。 「…静かだと思わないか?」 「森が?」 そう言われても、アリスト族じゃあるまいし、ディオにそれが分かる筈もない。 首を傾げると、ロキエは夕陽に赤く染まった街の方を指差した。 「あっちは風が騒がしい」 「…分かんないよ、オレには」 「そうか?なんとなく匂いが違うんだが…」 ロキエは思案深げに街を見下ろす。 何かを探すような瞳で、ディオもつられてそちらを見やった。 なだらかな山の麓に低い家々が連なり、都市の中央にいくほど高い建物が増える。 街は一つの山のように見えた。 そして、端の方に蠢くものが見え、目を細める。 よく見ると、人間が団体で街から出てくるようだった。 怪訝に思ってロキエに目を向ける。 「なんだろ…?」 「……アリスト族だ…」 ロキエの目には、先頭の男がぐったりとしたリドラエルを抱きかかえているのが見えた。 その後について、50人以上の少年達がぞろぞろこちらへ走ってきている。 「珍しいな。街に行ってたのか?」 「なんでだろ。ホノファーナに途中で逃げられたのかな」 「となると、ホノファーナは街にいる可能性が高い」 ロキエとディオはアリスト族が近付いてくるのを待った。 そして、ロキエの前まで来ると、リドラエルは男の肩を借りて立ち上がる。 恨みのこもった目で睨み付け、ロキエの顔の前に竜爪を突きつける。 「ホノファーナに伝えろ。我らは必ず宣言通りに実行する――――…」 「宣言?」 「…――それだけだ」 ロキエが聞き返した言葉を無視し、去ろうとするのに背後から訊ねる。 「レカオーを知らないか?」 「知らぬ」 「ワルネミュンデは?」 「…知らぬ」 声が低くなった気がした。 ワルネミュンデにも、イヤな思いがあるのかもしれない。 だとすると、ワルネミュンデもちゃんと逃げたのだろう。 しかし、レカオーのことは本当に知らないらしい。 「知り合いが迷い込んだかもしれない。見つけたらここまで追い出してくれ。…――ホノファーナにはちゃんと伝える」 「……よかろう…」 そう約束して、リドラエルは森の中に消えた。 アリスト族全員が森に入ってゆくと、ディオはロキエに指示を仰いだ。 「オレは街に行く。お前は塔に戻って森の入り口全部を見張っててくれ」 「分かった」 ディオが神妙に頷くのを見て、ロキエは街に向かった。 街から出てきたアリスト族が、ホノファーナに伝えろと言ったということはそこにホノファーナがいるという事で、何かしでかす前に、レカオーと引き合わせないといけない。 ワルネミュンデに怒りを感じている筈で、ワルネミュンデの行きそうな所を探せば、ホノファーナもいるかもしれない。 となると、まず、ツルアの所へ行くのがいいだろうと、勘を働かせた。 日が暮れて薄暗い中、大通り公園を目指し人込みを走る。 その中に、やたらに自警団の姿を見る。 いつもなら少数が見回りをしている程度で、他は詰め所にたまっているのに、今日はかなり目に付く。 何か既に起きてしまったのだろうかと焦るが、アリスト族が入り込んでいたのを見て誰かが通報したのかもしれない。 アリスト族をあまりよく思っていない人間も数多くいる。 気性が荒く短気なため、アリスト族が街に入ると必ずと言っていい程喧嘩騒ぎが起こる。 それで、自警団がアリスト族を追い出したのだろう。 そう結論づけながらツルアの働いている店に向かう。 ホノファーナがツルアに会った時、ワルネミュンデも一緒だった。 とするとツルアがワルネミュンデの知り合いだと知っている筈で、ワルネミュンデを探すならツルアの所に寄るだろう。 土産物屋が連なっている界隈の一角、ツルアが店員をしている店を見つける。 明りが点いていて、店の前にその家の息子がいた。 ロキエが走っていくと、その少年は何かあるのだろうかと怪訝な顔をした。 「ツルアはまだいるか?」 「ついさっき帰ったけど」 すれ違ったのだと胸中で舌打ちする。 「何か用だった?」 「ああ。ワルネミュンデかホノファーナが来なかったかと思って…」 息を吐きつつそう言うと、少年は思い出すように首を傾げた。 「ワルネミュンデなら来てたみたいだよ。ヤツのことで愚痴ってたし、ツルア。もう一人のことは知らないけど」 それを聞いてすぐ、ロキエは礼を言ってその場を去る。 ワルネミュンデが街にいるらしい。 そして、リドラエルの言葉からして、ホノファーナも街にいる。 その二人が鉢合わせると大変なことになりそうな予感がする。 早くホノファーナを見つけて捕まえてしまいたい。 気は焦りだし、足早に通りを進む。 陽が沈み、当たりに暗闇が漂い出した。 今日中にすべてを片付けてしまって今夜はゆっくり休みたい。 ワルネミュンデとホノファーナの無事を確認しなければ眠れそうにない。 苛つきながらネービュのいる店に向かっていた。 |